トルコの花々
 

雑感
T トルコ滞在中の6日間ずっと同行してくれたトルコ人の現地ガイドはかなりインテリな方で、長距離ドライブ中にトルコの国情についていろいろ話をしてくれました。
断片的になりますがそのうちのいくつかを列挙すると、
(1)トルコは昔から食糧の自給自足が出来ていて、そのことが原因となっている事象がいくつかある
 * ストレスが無く、現状を幸せだと思っている人口割合が78%と高い
 * スポーツもせず、よく食べるから心臓病、高血圧、糖尿病が多く長生きできない
 * のんびりしているから集中力が無く効率化意欲が薄い・・・日本と逆
 * 年寄りや貧乏人に対する面倒見が良い・・・心の余裕か宗教の教えか
(2)ヨーロッパに近いので物価が高く、中でもガソリンは世界一高い
(3)世界ランキングで上位のものは、大理石埋蔵量世界一、毛織物生産量2位、観光業7位など
(4)近年先進欧州諸国にとっての中国的位置付けで自動車、家電の生産工場が増加中  等々

帰国後これらの話の裏付けを、ネットで分かる範囲の統計資料などで調べてみました。
ガソリン価格は2009年統計では東京を100とするとイスタンブールは165.7で、やはり世界一です。(対象国数60、日本は37位)
食糧自給率については、2005年統計では魚介類こそ73.9%ながら穀物類107.4%、野菜105.9%、果物130.1%、肉類103.0%等、確かに充足されているようです。
その結果「食う」ためのストレスも少なくのんびりで、家族・知り合いを大切にし、夕食が終わると家族揃って親戚知人の家に行ってそこでまた食べる、健康にあまり留意しないから生活習慣病が蔓延して長生きできない、ということにつながっていくのでしょう。(平均寿命72歳前後で日本とは10歳の差)
トルコは布団で寝る、座敷(床)に座る等、日本の生活風習と似たところもありますが、決定的に違うのは「意識・意欲」のようです。
(以上の統計は「明治大学国際日本学部 鈴木研究室」というHPの「Economic & Social Data Rankings」という中にあったものですが、多岐に亘る項目の世界ランキングが掲載されていて大変面白いHPです)

大理石埋蔵量は、トルコ大使館関連のHPにも「埋蔵量は51億立方メートル」と書かれていますし、「地球全体の40%を占める」というネット記事もいくつか見受けられました。
大理石はマグマの熱を受けて石灰岩が再結晶したもので、地中海地域は元々石灰岩の層が多く存在しているのでイタリアやトルコが世界有数の大理石の産地というのも頷けます。

観光については、世界観光機関(UNWTO)の統計でも2009年のトルコへの外人訪問者数が25.5百万人で世界7位となっていました。
日本からトルコへの訪問者数は日本旅行業協会によれば2007年たったの17万人程度(トップの中国へは400万人、2位の韓国へは220万人)と低位置ですが、昨今の中近東地域の中では最も政情が安定している国の最右翼ですし、もっと増えてもおかしくないのではないでしょうか。
案外日本ではトルコのことが教科書でも報道でも目にする機会が少なく、私もそうですがトルコについてあまり多くを知らない日本人が多いのだと思います。
一方トルコは明治時代のエルトゥールル号遭難事件がもとで親日感情が行き渡っていると言われ、現に今回の旅行でその一端を何度も垣間見ることができました。
日本の外交ベタはいまさら始まったことでもありませんが、中国が軍事力・経済力を拡大して日本の脅威になりつつあるなか、また中国・ロシア・韓国との領土問題がこじれるなか、日本は米国だけでなく多くの自由・民主主義国家との「真の友好関係」を講じていかなければならないはずです。
台湾(民進党に戻ったら)やインドが筆頭候補だと思いますが、地理的に遠いとはいえトルコも今のうちにもっともっと親しくなっておいて良いのではないでしょうか。
食糧自給率が低い日本と高いトルコ、加えてトルコに関するWikipediaの記事によれば「石油と天然ガスの埋蔵量が膨大であることが近年分かった」、「マグネシウム産出量世界2位をはじめ鉱物資源に恵まれている」等々、日本の弱点がトルコの強みになっている感があります。
同じ記事の中には「日本向け最大の輸出品目はマグロ、日本からの最大の輸入品目は自動車」とも書いてありました。
日本からは各種技術輸出や生産工場進出、トルコからは第一次産業品目の輸入で今後もお互いギブアンドテイクの関係は充分構築できると思うのですが。


U アヤソフィアとカーリエの両博物館で数多くのイエス・キリストを描いた画を見ましたが、普段よく目にする十字架に架かったり十字架を背負っている画や立体像が全く無く、従ってそのお顔も「苦悩」ではなくて「英知」とか「聡明」、「威厳」といった言葉のほうが似合うような表情ばかりであることが分かります。
素人の俄か勉強で思うには、11世紀に東西教会分裂が起こり、西方教会はローマ・カトリック教会(その後16世紀にプロテスタントが分離)、東方教会は正教会(ギリシャ正教、ロシア正教等)に別れ、正教会はコンスタンティノープル(現イスタンブール)に総主教庁を置いたので、ここにあった多くの教会は正教会の解釈(教義)に基づいた教会の内装表現となっていたためなのではないでしょうか。
また、立体像が両博物館に全く見当らないのは、8〜9世紀にかけて東ローマ帝国では聖像破壊運動が起きたためなのか、それとも1204年の十字軍侵略に際しては“略奪の限りを尽くした”といわれるのでその時に根こそぎ国外に持ち出されたりしたのか、あるいはその後のオスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落の際にオスマンの兵士たちによって破壊されてしまったか、モスク転用時に撤去・破壊されて画だけが残ったのか、私の勝手な解釈、想像ですのでどれが正しいのかは全く分かりません。

前回、前々回のイタリア、スペイン旅行はいずれもカトリック中心の国ですから、今回違う系統のキリスト教会の痕跡を見ることが出来たのも収穫でした。
それもこれも、コンスタンティノープルを陥落させたオスマン帝国メフメト2世が教会を破壊せずこれをイスラム寺院に転用し、また、税金を払えばキリスト教もユダヤ教もその信仰を認めたからこそ残ったのだとも言えます。
キリスト教徒中心のアメリカ映画で育った私などは、イスラム教徒(=回教徒)というといつも悪役で「半月刀を振り回す残虐非道な異教徒」というイメージが頭の片隅にこびりついていたのですが、今回のトルコ旅行の体感・体験はそんな先入観を変えて親しみを覚える良い機会になったように思います。

                                
終わり

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